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金木犀の香が足どり軽やかにしてくれる季節も、冷たい風とともに少しずつ過ぎゆこうとしています。今年も残すところあと、二ヶ月余りとなってしまいましたね。

私は元旦を迎えたとき「今年は1日1つ夢をもち、365個すべて叶える」と、決意しました。
ちょっぴり無謀とも思えるようなその挑戦を可能にしてくれたのが、春先に母が提案したある
一言でした。

「今年のお花見は、沙りと二人でお弁当をもって浅草までずっと隅田川沿いを歩くよ!」

浅草までの道のり

私の住む小さな町から、目的地までは十もの橋がかかっています。

自転車や船でなら何度か行った事のある道ですが、徒歩ではまださすがになかったので、
意外な提案に驚きましたが、水辺が好きな二人なのできっと楽しい時間になるだろうと、
心を躍らせてその日を待ちました。

当日は晴れ。歩くのにはちょうどいい気候で、写真の撮影ポイントを探しながら
中央大橋、永代橋、隅田川大橋、清洲橋・・と、順調に足を進めました。

















幼少の頃から体力のない私を心配した母は途中「休む?」と、何度か訊いてきましたが、
その度に私は「まだまだ!楽しみはもっと後にとっておく☆」と、ぐんぐん先へ進むので、
「がんばるねぇ。すごいねぇ」と、少し驚きながら
「こっちの道が面白いんだよ」と、案内をしてくれました。

そうして新大橋を過ぎた辺りで静かなベンチを見つけ、ようやくお弁当を広げることにしました。



時計はすでに午後二時を回り、宴の支度をする屋形船が往来するのを二人で眺めながら
時折、父のことを話したりしました。

「父さん、このおかず好きだったね!」から始まり、他愛もないことをあれこれと思い出しては
ハハハと笑ったり、しゅんとしたり・・

お弁当をもって出かける行事が大好きだった父は、いつも朝はりきって支度をしていました。

子供の頃、デザインの仕事をしていた母は毎日納期に追われ、夏休みのおでかけも
父と二人きりで行くことがよくありました。

しかし、私をプールに連れてきても一緒に泳いでくれるのはお弁当を食べる時までで、
あとはいつもウィスキーを飲んでプールサイドで寝てばかり。

「だから、ちょっとさみしかったんだ・・」と、打ち明けながら、お弁当箱のおにぎりに
手を伸ばした時、木漏れ日が差し込んでふーっとあたたかくなりました。

その瞬間、ふと思ったのです。

二人で握ったおにぎりを食べて、ぽかぽかの太陽を浴びながら、
ボートに横たわってゆったりと水に浮かぶ・・
そんな風に休日を過ごすのが、きっと何よりも贅沢で幸せだったんだろうな、と。

奇しくも当時の父と同じ仕事に携わるようになったおかげで
そんな父のひそかな思いに、ふと気がつきました。
そうして、ふわりと舞い落ちてきた花びらが水面に揺れた時、
気持ち良さそうに眠る父の顔が浮かんできました。

しばらくすると冷たい風が吹きつけてきたので、広げたお弁当を二人でしまい、
「ウ~ン・・」と、思いきり体を伸ばしてから再びゴールを目指しました。
人形町辺りを抜けて、墨田区に入ると相撲部屋なども近いせいか、
少しずつ外国人観光客の姿も見え始めました。

途中で川沿いから外れ、脇の道を入ったところで
趣きある小さな橋のたもとに、古い建物を見つけました。

昔ながらの船宿のようなたたずまいをした佃煮屋の向かいには釣り船屋。
屋形船が停泊する柳橋。少しだけ足を止め、江戸情緒を感じながら
大好きな落語の世界に出てくるような当時の町の人たちの暮らしに思いを馳せました。

柳橋にて















老舗佃煮屋
















「寒いね。疲れたけど、あとちょっとだね!」と、母と二人で目指してきた道のり。
少しずつ陽も傾き始め、ゲストハウスに通う際いつも渡っていた青い橋が向こうの方に見えてきました。
















緑色の厩橋を越えた辺りで、見慣れた景色に安心し、
少し重くなり始めていた私の足は、また一気に軽くなりました。
駒形橋そばの通い慣れたラーメン屋さんを背にしながら、最後の道を一直線!
そうして、とうとうゴール地点の吾妻橋に着きました。

ふもとには、オープン間近のスカイツリーを、そのファインダーにおさめようとする
観光客の姿で賑わっていました。駅前で地図を広げている外国人達も、きっと
私がいたあのゲストハウスに向かっているんだな・・・と、大好きだったそんな光景を
久々に目の当たりにしたその時、この長い道のりを一心に歩いてきて本当に良かった
という思いが込み上げました。

「懐かしい~!何かおいしいものを食べて帰ろうよ!」と、得意になって母を引っ張ると
「え~・・・せっかくいっぱい歩いたのにもう食べちゃうの?家で体重計ってからにしようよ」
と、母に説得され、ちょっぴりがっかり。仕方なく、すしや通りを抜けROXの方に出ました。

この辺りには安くて気の利いたデザインの服を置いている店があるので、
「食」は諦めて、「衣」を愉しむことにしようと、春夏に着られるワンピースを探すことにしました。

紺のカットソーと、パープルのAラインのワンピースが気になり、丈の長さを鏡で見ていると
店員さんが私に合ったサイズを一目で見分けて、素早くもってきてくれました。
アプローチがとても自然でフォローも上手なベテランの女性で
私の試着を待つ間、母も楽しそうに話しているのが聞こえてきました。

シルエットがなかなか良くて、今までより大人っぽい雰囲気になったので
この服を買って帰ることにしました。

「あの店員さん私達のこと、姉妹だと思ってたみたいだね!」

「親子ですって言った時のリアクション凄かったもんね☆」

と、二人で笑いながら、帰りはそのまま大江戸線に揺られ、
半分眠りながら家路につきました。

いつもは近くの公園でゆっくり桜を見るだけだったのに、なぜ今年はこのようなコースを
計画したのか・・それは私が30代を迎える少し前から急激に太ってきたことを心配した母が、
私の運動不足を解消させる作戦だったのだと、後日打ち明けられました。
























 
 
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Me
HN:
沙り
年齢:
42
HP:
性別:
女性
誕生日:
1982/02/14
職業:
セレクトショップスタッフ
趣味:
ジョギング・写真      伝統芸能・祭・旅
自己紹介:
生後3ヶ月の頃
母に抱かれながら
生まれた喜びを
懸命に伝えようとする声

我が家で大切に
保管されている
カセットテープには
そんな私の
「言葉」と「人」への
純粋な思いが
残されています

交換留学先の
オーストラリア

高校演劇の稽古場と
体育館の舞台

留学生たちと語り合った
外語学院のカフェテリア

母国語とは何かを
教えてくれた
日本語教師養成学校

身を削りながら
学費を稼ぎ出した
グランドホテル

20代を語る
全ての背景となった
駅前の洋書売場

大好きな隅田川の
ずっと先にあった
浅草のゲストハウス

そして

旅人達のターミナル・・


気がつくと
その学び舎で得た事は
すべて
外国の方々の笑顔に
繋がっていました

日本語を学びたいと
心から願う人たちの為に
どんな形でも
教える場を設け
共に学んで行く事が
私の夢です

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