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今年は元旦を迎えてからずっと、「和」にこだわった時間を過ごしたいと常々思っていた。
初めて来日するアメリカ人の友人ジェレミーに心ゆくまで日本を感じてもらいたい・・
一昨年、東京シティガイドの試験を受けたのも、それがきっかけだった。
彼が純粋な気持ちでニッポンをみてくれているから、私も「和」を大切にしたいと思ったのだ。


歌舞伎・能・狂言と並んで、私の好きな日本の芸能の一つに「落語」がある。
休日土曜の午後2時をまわる頃、NHKではな木久蔵の描いた挿絵を背景に
「日本の話芸」という番組タイトルの白い文字が浮かびあがり、
ピッピリ~と、心地よい笛の音が流れる。
そのオープニング曲を聴くと、「あぁ、今日はどんな噺を聴かせてもらえるんだろう・・」と、
まだ見ぬ名人の登場に期待が高まるのだ。
そんな楽しみを知り、今年はたくさん寄席に行こうと強く思っていた。

浅草は正月に1回、上野の鈴本には3月に1回、4月に2回、5月に1回、
そして7月は『大銀座落語祭』に2回と、これで7回足を運ぶ計算になる。

私はこの祭にはなんとしても「正装」で行きたいと思った。

夏の落語にはやっぱり浴衣でしょう、と。


去年見立てた、白地に青の浴衣に合う下駄を探しに、今日は母と浅草へでかけた。

大江戸線で新御徒町からつくばエクスプレスに乗り換えて一駅。
降り立つとすぐに、正月に行った東洋館の楽屋からお囃子の音がきこえてきた。

やっぱりたまんないなぁ、夏の浅草は。


母が昔、着物の好きな祖母と来た記憶を頼りに、田原町方面へ向かって歩く。

途中、八つ目鰻の看板を目にし、過労で栄養不足の母が気にしている様子だった。
健康番組などで、必要な栄養素の項目欄で頻繁に書かれているそうだ。
この頃、視力が落ちてきた私にとっても、八つ目鰻はいいらしい。
けれど今日に限ってシャッターは降りていた。

その通りにあった横断歩道の向こう側には「漢方薬」と大きく書かれており、
近づいてみるとそこは、さっきの鰻屋の姉妹店のようだった。
つい最近私の友達も体の悩みを根底から解決したいなら漢方がおすすめだといっていた。
いざとなったらここへ来よう。

そう思いながら、その場所をあとにして、雷門通りへと向かった。
角をまがったところに一軒の風格ある履物屋が見つかった。
ショーウィンドウに飾られている下駄の手前には手のひらサイズの飾り下駄もあり、
とても可愛らしかった。

さっそく中に入ってみることにした。
母は昔、デザインの仕事をしていたため、色を見る目は確かだった。

帯は紺色に白い刺繍が入っているので、そんな雰囲気にあう鼻緒を探した。
ニ、三足気になるのがあったが、第一印象で最も目を引かれたのがこれだった。

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黒や檜や茶色の板はよくみかけるが、紫というのはなかなかない。
この道何十年という女将さんも、

「お嬢さんの足なら調整なしでこのまま履けますよ」と、太鼓判を押した。

さっそく試してみると、履き心地はとても軽かった。
今までだと、よく鼻緒にあたる部分が皮むけでヒリヒリして痛くなっていたので相談してみると


「あぁ、それは硬い鼻緒のでしょう?これならとってもやわらかいから大丈夫。
絶対にそんな心配はいりませんよ」

と、自信をもって勧めてくれた。

素早く、力のあるその女将の一言に、私と母は顔を合わせてうなずいた。
レジでもらった名刺には『浅草のれん会 御はきもの処 和泉屋』と、書かれていた。
いつかまた大人の着物を着るようになったらここへ来よう、と思った。


思ったよりもだいぶ早く目的を果たせた私達は、今夜のお食事処をさがして
上機嫌で再び歩き始めた。

雷門に向かって進んでいくと、映画原作『しゃべれども、しゃべれども』の表紙を飾った
国分太一の写真が目のわきに映り、気になって振り返ると一台の機械があった。

何だろう、と二人で足を止めると「千社札」と書かれてある。

自分の名前を入れて、好きなデザインでつくれるらしい。

おもしろそうだね!と、二人で百円玉を投入してみた。

まず最初に構成のパターン、名前の位置決めと入力、文字の種類、
そして最後に背景のデザインを選ぶという4つの工程があった。

さっき買った下駄の色が印象に残っていたので、それに似たような色を選んだ。

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●●亭などと入れることもできるようだったが、初めてで要領を得なかったので
とりあえず今回は自分の名だけにしてみた。
ジェレミーに教えたら喜ぶかもしれないなと思い、この場所を覚えておくことにした。

思わぬ発見ができたうれしさで足どりはさらに軽くなり、
雷門をぬけて仲見世に入っていった。
アジア系の観光客がパチリ、パチリと色んな方を向いてシャッターを切っていた。
平日なので、人はさほど多くなく、一軒一軒のお店をゆっくりと見てまわることができた。

中でも気になったのが、招き猫の専門店。窓一面にねこ、ネコ、猫。
さらに奥にはソーラーでゆったりとしっぽをふって笑う猫なんかもいたりして、
これはOn Japanのディスプレイにうってつけなのではないか、と思った。

棚がえがおわって、細かい調整に入る時、置けそうならばおいてみよう。

いやー、今日はいい出会いがつづくなぁ。


楽しくなってさらに足を進めると「すぐれもん」と書いた和菓子を発見。
しゃれた名前のそのレモンのお菓子はたしかにおいしそうだったが、
私は、その横にあった「おいもパイ」が気になった。

見つけたとたんに食べてみたくなったので、せっかくだから
いつもお世話になっている売場のみんなにも買っていこうと思い、
一箱包んでもらった。明日、仕事の合間に封を切るのがとても楽しみ!

表参道まできたところで左に曲がり、「伝法院通り」に出た。

仲見世の煌びやかな雰囲気とは違い、濃紺や濃緑に染められたのれん、
そして濃茶の木造の建物が軒を連ね、昔ながらの浅草を感じさせる。
たい焼き屋や、帽子屋、古書店といった並びの奥には
江戸文字に木の看板を掲げた風格ある着物屋が店をかまえ、
BGMにはお囃子が流れていた。

なんて粋な町なんだ。本当に・・  そう呟くと、

「梅雨の浅草はしっとりしていいもんよ」と母がいった。

私はこの通りがとても気に入った。

極めつけは角を右に曲がったところにある赤提灯の店だった。

外にはいかにも下町の飲み屋という感じの丸いすと長机が並び、
前を通るたびにおばちゃんの威勢のいい呼び声がかかってきた。
どこがいいかなぁ・・と見ながら歩いていると、三軒目で母が足を止めた。
同じ赤提灯でもさっきより少し静かな雰囲気のする店だった。

生を2つと、牛すじ煮込み、それになすあげを頼んで間もなく、
わきの車道から一匹の猫がやってきた。

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ごらんの通り、そんなに愛嬌のある子ではない。

けれども、人があまり得意でないながらも、そのそばを離れず、
母の手や椅子にすりよる姿がなんともいじらしく、
箸をとめてしばしその光景を眺めていた。

父がいたら、きっと喜んでいただろう・・
酔えば、実娘の私のことでさえ飼っていた猫の名前で呼んでいたのだから。

「ちょこ、お前もお酒のむか?」

と、今頃いっていたに違いないと思うより先に、私の口はそういっていた。

下駄屋の女将さんに始まり、今日は一日ずっといい出会いばかりだった。

とても幸せな気分になった。

ほんの少しのビールで、いつもよりハイになった。


いつもはあまりしゃべらず、笑っていてもどこかさみしそうな母も、

今日は心から喜んでいるようだった。


浅草って、やっぱりそういう町なんだな・・・






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タイトルが変わったね!
更新待ち望んでました☆

タイトルを変えたんだね。

私も浅草大好きです。
あの町の雰囲気いいよね♪
たま~に屋台めぐりみたいなことをしに行きます。
昔、○重○で働いていたバイトさんが、浅草で飲食店を出していたので、しょっちゅう行ってました。
(今はもうないのが残念ですが)

写真にあった紫色の下駄いいねぇ!
とっても上品な感じでいいな。


招き猫のお店、私も何回か入ってみたことがあります。
お店のおじさんが怖かった記憶があるなぁ・・・


浅草って、純日本的なものもあれば、場外馬券売り場とかなんだかなぁというものもあり、ゴッタ返しているけど、そのごちゃごちゃさが好きです。

逆に六本木とか表参道のあの近代的な綺麗さの方が苦手です。


やっぱりサリーさんは、文章上手いね☆
私も情緒があって、雰囲気のある文章を書きたいもんだ。
やっぱりまずは本をたくさん読むこと?
くりすけ 2007/07/07(Sat)19:36 編集
江戸への憧れ
すっかりごぶさたしてしまって、どうもすみませんでした!
また気まぐれになってしまいますが、心に残る風景を綴っていけたらなぁと思います。

浅草は子供の頃によく連れて行ってもらっていましたが、その頃よりも大人になってからの方があの町の魅力がわかるようになりました。

陽が暮れる頃になると着物姿の旦那達が、裏通りにある行きつけの飲み屋へと闊歩する・・そんな何気ない日常風景にこそ「粋」を感じる町ですよね。

まだまだ経験の浅い私には大人の味のする文章は書けませんが、それでもあの町はほんの少しゆっくりと歩くだけで何かを書かせてくれます。

これからもいろんな町を「ぶらり」しよっと。

猫の店のおじさん、たしかにそんなに愛想はなさそうだったな。
でもそれもまた下町のがんこ親父みたいな感じでいいのかも。

今度はもっと職人さんが働いている工房なんかをのぞけたらいいな・・
どんなに見事な伝統の技も、後継ぎがいないということでその歴史に自ら幕を下ろす店も少なくないですものね。残っているうちにいろいろ見ておきたいです。

染物や、かんざしなどに興味があるのでそういう手作りの和小物を探したりしたいです。
外国の人への贈り物にもよさそう!

バイトさんが浅草にお店だしてたんですかぁ・・それは私も行きたかったなぁ。
でもあの辺で生き残るのはたしかに大変かもしれませんね。お客さんの見る目も厳しそうだし。

今日は休みで銀座方面を歩いていたんですが、男女共に着物姿で信号待ちをしている粋な若い恋人達に遭遇しました。そばを歩いていたサラリーマンのおじさんもくるっと振り返っていましたよ。

私もいつか恋人とそんな風に町を歩いてみたいな・・

年をとったら着物で生活するのが夢です。

そこに猫がいたら竹久夢二の世界になりますね(^^)
沙り 2007/07/07 20:23
お久しゅうございます
今晩は

お!久し振りの記事ですね。

浅草のお土産の「おいもパイ」本当においしかったです!ご馳走様。
お母様と浅草見物なんてステキですね~。
サリーさんの浴衣姿見てみたいな~。

それと猫ちゃんのいる屋台も風情があって良いな~。ビールがおいしく飲めそうね。

又、江戸散策をして、おいしいお土産買ってきてください。(笑)

●  ●
(・・)
●●  パンダ

↑ これ気に入りました。(笑)
ごみつ 2007/07/07(Sat)22:59 編集
ごみつぱんださんへ
はい。今回の旅でますます下町歩きが好きになりました。

今に息づく江戸の香りをたくさん感じて、自分の言葉で残していきたいなぁと思います。

そして普段の生活では味わえない、いろんな町の表情を見つけていきたいです。

おいもパイ気にいってもらえてうれしいです。

● ●
(・ ・)
●●

さりぱんだ

浴衣の写真はうまく撮れたらアップするかも?
沙り 2007/07/08 21:21
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HN:
沙り
年齢:
42
HP:
性別:
女性
誕生日:
1982/02/14
職業:
セレクトショップスタッフ
趣味:
ジョギング・写真      伝統芸能・祭・旅
自己紹介:
生後3ヶ月の頃
母に抱かれながら
生まれた喜びを
懸命に伝えようとする声

我が家で大切に
保管されている
カセットテープには
そんな私の
「言葉」と「人」への
純粋な思いが
残されています

交換留学先の
オーストラリア

高校演劇の稽古場と
体育館の舞台

留学生たちと語り合った
外語学院のカフェテリア

母国語とは何かを
教えてくれた
日本語教師養成学校

身を削りながら
学費を稼ぎ出した
グランドホテル

20代を語る
全ての背景となった
駅前の洋書売場

大好きな隅田川の
ずっと先にあった
浅草のゲストハウス

そして

旅人達のターミナル・・


気がつくと
その学び舎で得た事は
すべて
外国の方々の笑顔に
繋がっていました

日本語を学びたいと
心から願う人たちの為に
どんな形でも
教える場を設け
共に学んで行く事が
私の夢です

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