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 先日、会社に行く時、うっかり携帯電話を忘れてしまいました。休憩時間になるといつも携帯を開いていただけに、ないとなるとどうにも心持ちが悪い・・さて、どうやって時間を潰そうかと辺りを見回すと、台車の上にあった一冊の本が目にとまりました。
  
若い女性が着物に三味線・・おぉっ!これはまさしく私が憧れていた姿!しかも帯には「OLから心機一転」とある。「今日、携帯を忘れたのも何かの縁!」と、運命を感じた私はさっそくその本を手にとり、夢中で読み始めました。
 080129_1146~01.JPG
 倉敷の薬問屋の旧家に生まれ、何不自由なく育った筆者が、なかなか「これぞ!」という自分の道を見つけられず26歳の時、東京に出ればきっと何でもできる!とやってきてから、俗曲師となるまでの様々な出会いと模索の日々を綴った手記で、「日本人なのに日本のことを何も知らない。けれど強く憧れる、そして何か自分もやってみたい・・」という思い、着物に三味線、そして転機が訪れた26歳という年齢・・今の自分とぴったりと一致するこのうめ吉さんに、とても親近感を覚えたのでした。
 
 
家に帰ってさっそくHPで出演予定を調べてみると、2月上席【浅草演芸ホール 夜の部】とあり、これは行くしかないと今日の休みを楽しみに待ちながら、写真と文字でしか知らないうめ吉さんへの憧れを強めていくのでした。
 
 
ニ、三日前まで降っていた雪もすっかり溶け、陽射しもまだほんのりと温かい三時過ぎ、早めに支度をして出かけると、着物を着た女性たちが浅草演芸ホールの前で写真を撮っていました。私もせっかくなのでと、こののぼり旗のにぎわい座を自分の携帯におさめ、少しでも近くでうめ吉さんをみる為に昼の部の終わりの方から早々と入場して一番後方から全体を眺め、前列の席が空くのを今か今かと待っていました。
 
 寄席の開始から、うめ吉さんの出番までは実に四時間。いくら落語好きの私でも、ずっと座りっぱなしはさすがにきついだろう・・と思いきや、今日の芸人さんはなかなかみなさんおもしろく、時間はあっという間に過ぎていきました。
 
時計の短針が五から六へ向かうその一番最後の幕に現れたのが「江戸売り声」で人々から親しまれている和風漫談家。登場するや「待ってました!」と常連のおじさんたちが威勢よく声をかけ、とてもうれしそうに微笑みかえす、その黒い羽織には「宮田章司」と書かれていました。
 
「薬というのは今じゃドラッグストアに行かなきゃ買えないが、昔は向こうから売りに来た。便利な時代でございました。」
 
と、その時代のエピソードを織り交ぜながら、一曲、二曲と歌っていると常連のおじさんが「いい声だねぇ・・」と、しみじみかみしめるので「すっかり気分がよくなりました。どうぞみなさま、ここらへんでご注文を!」と、言い終わらぬうちにすかさず「ラオ屋!」という声が一番前の席から飛んできました。
 
ラオ屋とは漢字で「羅宇屋」と書き、キセル(昔の煙草)の詰まりなどを修理する人のことをいうのだそうです。キセルの材料となる竹がラオスから入ってきたことからこの名がついたのだそうです。
 
そういった昔の様々な物を、ここにいる常連さん達はみんなリアルに見てきたんだな・・そう思うと、とてもうらやましく、そういった情緒をほとんど感じることができない時代に生まれたことがちょっぴり悔やまれるような気さえしました。
 
つづけて「金魚売り!」「七色唐辛子!」と、次々に古きよき日本の情緒を感じさせる声が次々に飛んできました。七味ではなく「七色」というところがさすがこの時代をよく知ってらっしゃる!と、宮田さんも大喜び。観客と一体となって、会場はとても盛り上がっていました。そのおじさんたちの生き生きした姿と、浮かんでくる昔の町の様子に心を動かされ、「今日はとてもいい出会いをしたなぁ・・」と、感じることができました。

asakusaengeihole.JPG

 
 






それから神田紅さんの講談や、ギター漫談やマジックショー、三遊亭一門の落語など八組の演目が続いたあと、いよいよめくりが「うめ吉」という名前に変わり、背筋がピンと伸びました。
 
袖からそろそろと梅の着物で目の前に歩いてきたうめ吉さんはとてもお顔が小さくて、細くて透き通るような声をしていました。本には「お稽古ではさくら師匠に相手にもされなかった」とか「三味線も唄も満足にできない」と、色々な苦労が綴られていましたが、高座ではそんな舞台裏の苦悩は感じさせないほどとても美しい音色で、何にも知らない所からたくさん研鑽を積んだあとがうかがえました。
 
新橋で芸者さんたちの舞踊を見て感激したことがきっかけで三味線を習い始め、そして長唄を習い、それから芸暦が浅いのをなんとか頼み込んで寄席囃子研究生になり、下座として寄席を袖から見ながら色々なことを吸収していくうちに、さくら師匠から突然、寄席の芸人としての道を示されたことなどを頭の奥で思い返し、隣の席の若い人はきっとそんなこと知らないんだろうなと密かに楽しみながら、今日の晴れ姿を眺めていました。

三味線の音だけでなく、衣裳にもこだわり、日本女性の美しさを追求していったうめ吉さん。口紅の色、髪の結い方、草履の高さ、そして着物の着方ひとつにしても、優雅に見える裾の長さ、帯のボリューム、そして帯紐との色合い・・細部にまで気を配り、たくさんの先輩方に意見を聞きながら、ひとつひとつ「なんかおかしい」と感じる要素を排除して、「あら、いいわね」と言われるようになっていったそうです。その過程は闘いでもあり、また喜びでもあると著書の中で語っていました。
 
高座では大人しい口調で三曲ほど紹介してくださったあと、最後に舞を踊ってくださいました。これを習得するのにどれだけのエネルギーと時間を要したのだろう・・と、思いながら眺めていると、白い屏風にくるくると舞い踊る影が映っているのが見えました。そのシルエットは非常に女性的で美しく、まるで名人・正楽師匠の切り絵のような、そのたおやかさに心を奪われました。色々と座り比べた挙句に今の三列目真ん中の席「う-11」を選びましたが、細かい表情や動きもよく見えたし、何よりうめ吉さんの「う」と三味線の糸のようで、偶然とはいえいい席を選んだなぁと、後から思いました。夢中になっているとあっという間に終わってしまいましたが、こんなに早くお目にかかれて本当によかったです。 
 
さて、トリには笑点でもお馴染みの三遊亭小遊三さんの師匠・遊三さんが登場し、貧乏な長屋連中が番茶を水で薄めただけの「酒」と、大根を月型に切っただけの「かまぼこ」、そして、沢庵を四角に切っただけの「玉子焼き」を、あ~ぁと嫌々口にしながら、場を盛り上げるために無理やり酒に酔ったふりをさせられる「花見長屋」という噺を最後に、今日の高座の幕が下ろされました。
 
とても満足した気持ちで演芸ホールを後にし、去年の正月に食べたひつまぶしの店、「うな鐵」に思いを馳せつつ、駅のホームで電車を待っていると、ちょうど後ろのベンチに辺りで一杯ひっかけてきた中年サラリーマン三人組が陽気に話しながら腰掛け、会話がなんとなく耳に入ってきました。
 
「こないだ酔っ払っちゃって終点の光が丘まで行っちまってよぉ・・そのあと戻ろうとしたら今度は勝どき通り過ぎちまって・・」
 
「えぇ、そりゃ奥さんに怒られたでしょう?タクシー使ったんですか?無実を晴らすために・・イヒヒ」
 
「いや、終電にはなんとか間に合ったんだ。だけどなぁ、こんなのは序の口よぉ。前なんか俺、三浦半島まで行っちゃったんだから・・」
 
「え?それでどうしたんですか?」
 
「慌てて周り見てみたら、駅のシャッター、ガラガラガラって駅員が下ろしてんだよ。
今日はもう終いですってな。それでよう、私、上大岡なんですけど、こっから帰る方法ありますかねぇ?って聞いたんだよ。」
 
と、今度は駅員の口調をまねて
 
「う~ん、国道まで出ればタクシーはあるかもしんないですけどねぇ・・あっ、でも今日は雨ですからここら辺は通ってないかもしれないですねぇ・・」
 
と、しゃべり分ける様子や、聞き手の様がなんだか落語の延長みたいで、最後の最後についてきた意外なおまけを背中で楽しんでいると、ほどなくして自分の電車がやってきて、段々サラリーマン達の話し声が遠くなっていきました。
 
そのまま何の気なしに足を進めましたが、浅草駅が見えなくなったあと、つり革につかまりながらさっきのサラリーマンの会話を思い返し、「本当の落語通なら落ちまで聞いてから電車に乗るべきだったかなぁ・・」などと一人で密かに笑い、楽しい一日の終わりをかみしめながら家路についたのでした。
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切符代なしで寄席気分☆
記事で紹介した宮田章司さん、檜山うめ吉さんのHPのほかに『落語の所作』というリンクを追加しました。扇子と手ぬぐいを使った色々な仕草の紹介のほかに、それらを使った小噺を実際に見てみようという素晴らしいページです。

15秒X2回のCMのあと寄席の動画がフルで見られます!

今日は柳家さん喬師匠の『長短』を聴きました。
気の長~い長さんと気の短い短七っつぁんのお話!
シンプルな分、仕草で笑えます。

落語には興味があるけどまだ馴染みがないという方はこの機会にぜひ!
沙り 2008/02/12(Tue)10:24 編集
Happy Birthday !
今日は。

バレンタインお誕生日、おめでとう。とってもコングラッチュレーションな日ですね。(ルー語か)

ふと見かけた1冊の本から、新しいものとの出会いがあったなんてステキですね。

しかし、サラリーマンの会話、続きが気になります。(笑)
ごみつ 2008/02/15(Fri)13:04 編集
本屋でよかったー♪
ありがとうございます。

1冊の本に綴られている世界というのは、自分の心のもちかたしだいでどんどん広がっていく気がしますね。

これからもこういう出会いを大事にしたいです。
沙り 2008/04/05 14:39
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HN:
沙り
年齢:
35
HP:
性別:
女性
誕生日:
1982/02/14
職業:
セレクトショップスタッフ
趣味:
ジョギング・写真      伝統芸能・祭・旅
自己紹介:
生後3ヶ月の頃
母に抱かれながら
生まれた喜びを
懸命に伝えようとする声

我が家で大切に
保管されている
カセットテープには
そんな私の
「言葉」と「人」への
純粋な思いが
残されています

交換留学先の
オーストラリア

高校演劇の稽古場と
体育館の舞台

留学生たちと語り合った
外語学院のカフェテリア

母国語とは何かを
教えてくれた
日本語教師養成学校

身を削りながら
学費を稼ぎ出した
グランドホテル

20代を語る
全ての背景となった
駅前の洋書売場

大好きな隅田川の
ずっと先にあった
浅草のゲストハウス

そして

旅人達のターミナル・・


気がつくと
その学び舎で得た事は
すべて
外国の方々の笑顔に
繋がっていました

日本語を学びたいと
心から願う人たちの為に
どんな形でも
教える場を設け
共に学んで行く事が
私の夢です

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