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雨に打たれても風に吹かれても、ただじっとそこに根をはり、堂々と広がる桜。長かった冬がようやく終わったんだ。あぁ、やっと春を迎えられたんだな・・

そうしみじみ感じられるのにはちょっと理由がありました。
 

ワンルーム14畳に対して、多すぎる本と衣装と家具。机ひとつで母と私のエリアを区切り、四方八方自分より背の高い家具に塞がれて、寒さと狭さに身を縮こまらせて眠る毎日。寝ても起きても体が重く、心も解放されず「さむい・・ねむい・・」と、家にいてもまったく活動しない私を見かねて、とうとう母が大規模な部屋の模様替えを決意。
慎重に長さを測り、重たい思いをして隣町のホームセンターから組み立て用の本棚をうんせと二人で持ち帰り、試行錯誤の末ようやく完成!


陽の当たる場所、大きな机、すっきりした本、お気に入りのステレオ・・そして大の字になれる寝床・・あぁ感無量・・広々としたスペースに移ったので、これからは心機一転、やりたいと思っていたことどんどんやっていこう!と、決心しました。

こうして一週間ほどかけて、おおかた部屋も片付いた休日のお昼過ぎ・・母と私はいよいよ花見支度を始めました。

隅田川沿いに住んでいる私達母子のこの季節の楽しみは水辺の公園の桜とお弁当。

いつもは二人が仕事を終えたあと、まだ少し寒さの残るなか夜桜を見に行っていましたが、
今年は温かいうちに外へ出ようということになりました。

啓蟄を迎えた虫のように元気になった私もようやくやる気がでてきて、母の手料理をひとつひとつ受け継いでいこうと積極的に台所に立ちました。

我が家のお弁当には「ほうれん草のたまご巻き」というのが必ず入っていました。ちょうど細い巻き寿司を切ったような形をしていて、たまごは外れないようにつまようじでとめてあり、噛むとたまごの甘みとほうれん草のおひたしがちょうどいいバランスで、遠足の日はそれをつまむのが一番の楽しみでした。

今日はほうれん草がなかったので、菜っ葉のおひたしを箱の下側に、上のラインには卵焼きを並べて、菜の花に見立てようという母。このあたりはなるほど、長年デザインの仕事をやっていただけあるなと感じました。こうして私はまずオーソドックスなたまごやきづくりから挑戦することにしました。


しばらく使っていなかった子供サイズの小さな四角いフライパンを手にすると、たしかに昔、踏み台にのって母と一緒に作ったな・・ということはかすかに憶えていましたが、具体的な手順やコツなどはまだ知らないまま・・

 

私は最初に「お手本をみせて」といいましたが、母は「とにかくまずやってみなさい」といい、すぐに卵を流し込まれました。どうやるんだっけな・・と、ちょっぴり焦っているさなかにも卵は少しずつ硬くなっていきます。結局、最初は”スクランブルの包み焼き?”というような感じになってしまいましたが二度三度と、諦めずに作っているうちに、母が最初に言っていたことがなんとなく手の感覚でわかるようになってきました。

 

シンプルなたまご焼きのほかに、明太子入りのたまご焼きをつくってみよう!と、今度は私のほうから投げかけました。以前、高校時代の親友と10年ぶりに再会したときに連れてってもらった和風ダイニングで食べたものでした。

 


私のなかでは「こんなやつ」という画がちゃんと浮かんでいましたが、母は最初、それがうまくイメージできなかったようで、口で説明はしたものの、どうやら捉え違えをしてしまっていたらしく、今度は母があたふたしていました。そこで私が舌の記憶を頼りに、きっとこうやって作るんだろう・・と、やってみたら大成功!ふわっふわのとろっとろ。おいしい明太子入りたまご焼きがついに完成☆

 

おにぎりもちょうどいい形に握れました。それから母がこの日の為に買い揃えておいたお肉やお惣菜を詰め込んで、水筒、割り箸、おてふき、カメラ・・全部が整い、いざ出発!両手にピクニックの荷物を抱えて、私は子供のようにそわそわそわそわ・・


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           (写真をクリック☆大きくしてお楽しみください♪)

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朝から吹きすさんでいた大きな風も、その時には少し落ち着いて、下町の路地にはぽかぽかとやわらかな陽射しが注いでいました。木陰のベンチではおばあちゃんが昔ながらの渡し舟をスケッチ。カメラをかまえてすぐ、去年も別の桜の下で赤い小橋を描いていたおばあちゃんだと気づきました。公園を歩けば噴水のまわりではしゃぐ子供達。ここにいるすべての人たちがみな、
春を喜んでいるようでした。

 

階段をおりて川沿いにくると、芝生の上にちょうどいいベンチがありました。ようやく荷物を降ろし、向かい合ってお弁当を広げたところで、母の写真を一枚。毎日の勤めで多少疲れも残っていたようですが、ちゃんと心から笑っている顔でした。

 

しばらくすると、ひょこひょこと鳩たちが「あ。ごちそう。いいな~ちょうだ~い。」というような顔でおもむろに近づいてきました。すると母はまるで村の賢いおばあさんのような口調で

「目を合わせるな」

と、すかさずいいました。

「目を合わせるとあいつらは調子にのってどんどんくるから」

そんな長老の教えを受け、私も物欲しそうな鳩を尻目に、ごちそうをほおばり続けました。
おにぎり、お肉、菜の花、筍・・と、選ぶのが本当に楽しく、パクパク食べていたら口がもごもごしてきたので、仕事場で使っているのと同じ水筒を、いつものようにガバっと口に傾けると、入っていたのはなんと熱いお茶!一瞬にしてやけどをしてしまいました。


「なぁにやってんの。だからさっき家で熱いの入れたから飲む時気をつけてっていったじゃん!」

あぁ、そうだったよな・・と、私も熱い思いをしてから思い出しました。

「そういえば、お前はちっちゃいときもうっかりストーブの上に座っておしりにやけどしたことあったね・・ほんとにばかだったんだねぇ」

と、二人で大笑い。それから色んな昔のたわいのない出来事を二人で思い出して盛り上がりました。

 

普段、どこかの店で外食をすると「なんだか贅沢をしているんじゃないか・・」と、不安がってなんとなく大人しくなってしまう母も、今日はいっぱいおしゃべりをして、なんだか楽しそうだったので私も安心しました。

 

段々風も出てきたし、おなかもいっぱいになってきたし、鳩もこりずにやってくるので、そろそろお開きにしようということになりました。

 

やけどしたあとビールで冷やしたので、ほろ酔いですっかり眠くなり、陽だまりのなかでふーっと体の力をゆるめると、とても気持ちよくなりました。

 

小さい時は、(どうして父さんはいつもお弁当を食べるとすぐ一人で寝てしまうのかなぁ・・)と、ちょっぴり寂しく思っていましたが、今日ようやくその気持ちがわかりました。


そうか、父さんもその時こんなに幸せだったんだなぁ・・




 

広げた荷物をかばんにしまい終わると、母が

「やけど痛そうだからソフトクリーム買っていこう」

と、いいました。近くのお店に入るとコーヒーのいい匂いがして、おいしそうな手作りパンも並んでいたので、明日の朝食にひとつずつ選びました。
 

帰り道、荷物いっぱいの互いの手がぶつかると、母はぎゅっと握って、

「お前の手はいつもあったかいねぇ・・」と、いいました。

 

そして子供の頃のわたしの口まねをしながら、

 

「かあしゃんのおててはいつも冷たいねぇ。
大丈夫だよ、しゃりちゃんがあっためてあげるからね」

 

そういいながら、よく小さい両手でさすってくれたんだよ、と話しました。

「あの頃のお前はどこにいっちゃったのかなぁ・・」と、ぼやいている母の横で笑いながら、(今日のことはずっと覚えていよう・・)と、
お堀の桜を見上げ、あらためて一つ一つを心に焼きつけました。

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春爛漫
今晩は。

お部屋の模様替えをしたんですね。
良かったですね!
いよいよ暖かくなってきたし、心機一転、お互いにがんばっていきましょうね!

今年は本格的なお花見は出来なかったけど、友人と目黒川沿いの桜をそぞろ歩きながら見てあるきました。

あと、筑波へバスで行く途中に見た隅田川沿いの桜は丁度満開で見事でした~。
ごみつ 2008/04/12(Sat)00:04 編集
旅のみやげ
いつも一番のコメントありがとうございます!

暖かくなると今まで気になってたけどできなかったことを片っ端からやりたくなりますね。

今日は新しいリビングでゆったり歌舞伎鑑賞してました!雪中に咲く不思議な桜とそれにまつわる歌人の話です。(くわしくはまたのちほど☆)

バス旅行中に思いがけぬいい景色に出会えた時は旅の楽しみも一入ですよね!

私も夏辺り、久しぶりに一人旅行でもしようかしらと思ってます。

私が専門学校を卒業して最初に入ったコンピュータ会社は大阪に本社があって社員さんもみんな人情があっておもしろい人たちばかりでした。

私の住む町も大阪・佃とは深い縁のある場所なので、この土地のルーツを探るべく、二十歳の時に初めて一人旅行をしたんです。その町自体は観光地ではないので、特に遊べるわけではなかったのですが、路地裏の感じがちょっと似ていて、おっ・・!と思いました。

心斎橋のビジネスホテルを拠点として、道頓堀や住吉大社をまわりました。うちの近くにも住吉さんがありますが、この町のシンボルである赤い橋が住吉大社の太鼓橋と似ていて、これもまたつながりを感じて楽しかったです。

二泊三日だったのですが、二日目の昼にはおっちゃんの好きな町・新世界へ行き、色々な食いもん屋があるなかで私は名物の串揚げ屋に行きました。

行列ができていて前にはご年配の、そして後ろには若いカップルが並んでいましたが私はその一人客だったので、先に入らせてもらいました。

隣に座っていたおじさんはいかにも大阪のおっちゃんという感じの昭和っぽい茶色い帽子をかぶり、横のお姐さんと粋な会話をしていました。夏の炎天下に昼間からビールを飲んでしまい、日傘もなかったので路面電車を待っていたらちょっとクラクラしてしまいました・・(笑)

一人きりだったので、くいだおれるためにはもう少しメンバーがほしいところではありましたが、この町のルーツを探るという本来の目的は果たせたので、いい旅になりました。

筑波はごみつさんにとってどんな場所でしたか?

沙り 2008/04/12(Sat)19:01 編集
ちょっとほろっと
こんばんは☆

私も先週多目的棚を買って、部屋を大改造しました。
こういうのって「やるぞ!」と思うといてもたってもいられないのよね。
決心したらすぐにネットで安くていい棚を探して、注文していました。

1つ改造するとまた別の所もやりたくなって、結局大模様替えするのに1週間かかりました。


お母様とのお花見の様子が目に浮かぶようでした。
なんだか最後のくだりがちょっとホロッときてしまいました。

お二人のほんわかした優しい空間と桜の柔らかな色合いがとっても合っているなぁって思いました。

サリさんみたいに文才ないから、なかなか感じたことを書けないわ(-_-;)
くりすけ 2008/04/14(Mon)20:32 編集
くりすけさん!
こんばんは。そんなに褒めていただいてありがとうございます。母はほとんど毎日私のちいさい時の、おもしろかった発言や行動などを思い出しては、再現をして伝えるんです。よく昔から変わったことをする子だったので、本当に笑えます。

くりすけさんもお部屋大改造したんですね!おつかれさまでした。また今度遊びにいってもいいですか?

確かに、今日やろう!と思った瞬間はもうホントいてもたってもいられなくなりますよね!!私は仕事でもよくペーパーバックを並べてる時にぱっと閃いて、いきなりガタガタと棚を動かし始めることがあります。今すぐイメージを形にしたい!という衝動にかられるんですよね☆

そして思い通りに決まった時はジグソーパズルのピースの最後をはめた時のような達成感があります。
今日も映画のコーナーを少しいじって来ました。
もうすぐGWなので、いっぱい売れるといいな☆


沙り 2008/04/16(Wed)19:40 編集
無題
こんばんは。

ブログのタイトルを変えましたのでご報告です。
「エピデングラム」となりました。

職場で沙りさんと会うことがあんまりないですね。
忙しいんだろうな。と思っています。

沙りさんの世界観は、伝統、家族、四季、文化、といった言葉を連想させます。
どんな思いを抱えているかわからないけれど、
若いのにぶれてなくて不思議だなあと思います。

裂織 2008/05/09(Fri)21:59 編集
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HN:
沙り
年齢:
42
HP:
性別:
女性
誕生日:
1982/02/14
職業:
セレクトショップスタッフ
趣味:
ジョギング・写真      伝統芸能・祭・旅
自己紹介:
生後3ヶ月の頃
母に抱かれながら
生まれた喜びを
懸命に伝えようとする声

我が家で大切に
保管されている
カセットテープには
そんな私の
「言葉」と「人」への
純粋な思いが
残されています

交換留学先の
オーストラリア

高校演劇の稽古場と
体育館の舞台

留学生たちと語り合った
外語学院のカフェテリア

母国語とは何かを
教えてくれた
日本語教師養成学校

身を削りながら
学費を稼ぎ出した
グランドホテル

20代を語る
全ての背景となった
駅前の洋書売場

大好きな隅田川の
ずっと先にあった
浅草のゲストハウス

そして

旅人達のターミナル・・


気がつくと
その学び舎で得た事は
すべて
外国の方々の笑顔に
繋がっていました

日本語を学びたいと
心から願う人たちの為に
どんな形でも
教える場を設け
共に学んで行く事が
私の夢です

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